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 ■ ハオルシア研究 21号 p.11 「オブツーサ系斑入り名品」 補足説明


① H. ‘Antoinette’ 「アントワネット」
 オランダの培養園からH. cooperi x maughanii の斑入りとして売られていたが、‘Antoinette’(アントワネット)と命名された。作出はRobert Wellens氏。

 名前はフランス革命で断頭台に消えた王妃・マリー・アントワネットにちなみ、“Truncated Beauty”(断頭美人)の隠喩である。“Truncated” は裁断型とも訳されるが、本来は「頭を切り落とした」の意味で、H. truncataH. maughanii の葉先が切り落とされたような形の窓になるのを形容している。

 本品種はH. cooperi x maughaniiとなっており(実際は葉先の尖るH. cooperiではなく、H. piliferaあるいはH. dielsianaなど、葉先がやや丸い種が片親と推定される)、地色が通常の万象よりやや明るく、また万象より丈夫で生育も早い。しかし雑種であると断らなければ、万象そのものとして通ってしまうくらい万象に似ている。一方、遺伝的にObtusa系が入っているため、斑の透明感は万象錦よりずっと高く、したがって美的にはより美しい。また斑性は「美穂」のように鮮明で安定しており、ほとんど全個体が総柄である。現在、万象錦より人気が高いゆえんである。

 万象錦やオブツーサ錦を実生から作出するための母木として、どちらにも使える点でも高く評価される。これまでのところ、子吹きは全く見られない。


② H. venusta variegated ベヌスタ錦
 やはりオランダでの培養苗から出現。純系のベヌスタで、株の性(軟毛の生え方等)も良い。比較的大柄の斑なので、斑廻りのよいものを選ぶことが大切と思われる。またまだ小苗なので、将来どの程度安定した斑になるかは不明。斑色は白だが、日本での栽培下では黄色みを帯びてくる。黄白斑かもしれない。

 斑入り培養苗は一般に軟弱だが、H. venustaなど葉質の柔らかい植物は特に弱く、輸送に時間がかかると腐死する率が高いので輸入には注意が必要である。




 以下の4品種は白~黄白の全斑種で、大変珍しく、かつ美しい。全斑は一般に枯れてしまうものが大部分だが、これらの品種は葉裏などに細い緑の部分が残り、生育可能となっている。(ノリ斑は表皮の1~2層が斑となり、内部に葉緑層があるものだが、全斑は表皮の全層が斑となる(表皮の下の貯水組織はもともと無色透明)のでより鮮明。)


③ H. ‘Garasu-zaiku’ 「ガラス細工」
 おそらくCooperi系ではなく、Pallens系のH. elegans n.n.(Koonap Bridge)の全斑と思われる。H. elegansH. hogsia n.n.(Hogsback)やH. speciosa n.n.(Thomas River)とともにH. pallensH. specksii との中間型種である。

 上から見るとほとんど完全に真っ白で、大変美しい。葉はやや立ち葉で、葉辺には弱い鋸歯がある。


④ H. ‘Hakuja-den’ 「白蛇伝」
 白蛇の精「白娘」を主人公にした中国説話「白蛇伝」にちなむ。

 こちらはまちがいなくCooperi系で、おそらくH. dielsiana またはその交配種の全斑と思われる。葉は展開性(横に広がる性質)だが、中心付近では短く太い。葉辺、キールとも鋸歯は全くない。写真の株は外葉がやや徒長気味だが、Cooperi系斑入種ではおそらく最大型で、詰めて作っても少なくとも直径10 cmは超えるであろう。

 実物は写真より黄色みを帯びるが、上から見るとやはりほぼ白一色で、極めて美しい。ほとんど出回っていないが、Cooperi系斑入り品種の最優品の一つに数えられるであろう。


 なお余談になるが、Cooperi系とPallens系との違いを簡単に説明する。

(1)Cooperi系はPallens系に比べ、表皮が厚く、より頑丈である。これは両グループの基本的相違点である。

(2)Cooperi系は葉色が濃緑色で、紫色を帯びるが、Pallens系は淡緑色で黄色みを帯びる。

(3)Cooperi系の窓の中の葉脈は並行で、頂点に達せず中断する。一方、Pallens系の窓の葉脈は頂点に達してゆるい網目状になる。Cooperi系でも原始的な種では頂点に達する葉脈を持つ種もあるが、Cooperi系以外で中断する葉脈を持つ種はない(唯一の例外はH. kagaensis)。

(4)Cooperi系の窓の葉脈は一般に窓のガラス質の中に沈み込んで線状となり、葉緑素を欠くが、Pallens系では葉脈はガラス質の上に葉緑素を持ったまま表皮の延長として残る。ただしこれは例外がかなりあり、絶対的基準にはならない。

 なおこれらの違いの多くはCooperi系とCymbiformis系などとの違いにも共通する。

 またCooperi系はLapis系の進化型と見られるが、Pallens系はH. tenera (smooth form)-H. caeruleaから進化したグループと思われる。鋸歯の多いH. teneraからはH. pringleiなどを経てH. blackbeardiana系が進化しており、Pallens 系はその無毛系姉妹群になる。

 ただし内陸部ではCooperi 系のH. piliferaなどと交雑してH. elegansH. hogsiaなど、一見Cooperi系かと見間違えるような種もある。これらをCooperi系とすることも不可能ではないが、(1)の基準からすればやはりPallens系とするのが妥当であろう。


⑤ H. ‘Senjo-kan’ 「仙女冠」
 仙女盃に似た、ほぼ真っ白な美種。H. cymbiformisの斑入りとして南アフリカより最近発売されたが、明らかにH. setuliferaの全斑である。全斑品種では最も生育良好で、繁殖も良く、また子吹き苗もほとんどが全斑となる。現在はまだ品薄で高価だが、大型で生育良好なうえに色彩的に大変派手なので、将来は優良普及品種として花屋の店頭を飾るようになろう。


⑥ H. ‘Hakugin-no-tsuyu’ 「白銀の露」
 H. obtusa(ISIJ写真集p.47、 カクタスニシ・ダルマオブツーサ)あるいはH. pilifera(カクタス企画社・多肉植物斑入り写真集p.31)の全斑と呼ばれていたが、明らかにこれらの種、あるいはH. ikra n.n.などではなく、H. obese n.n. (H. cymbiformis v. obese)の全斑と思われる。古く(1979年以前)からある品種だが、繁殖が悪く、ほとんど普及していない。