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Haworthia sabita in Majamannie
 ハオルシアはアロエに近い小型多肉植物で、南アフリカのみに生育します。葉の形態はきわめて多様で、特に葉の先端部が透明なガラス様窓となるグループには宝石のように美しい種が多数あります。このためハオルシアは世界的に現在もっとも人気のある多肉植物となっています。

 ハオルシアは昔から有名な分類困難群で、現在でも分類は定まっていません。特に最近はBayer流の大まかな分類(約80〜100種)が見直され、また新発見も相次ぐなど、毎年多数の新種が記載されています。現在約300種が記載されていますが、記載準備中のものを合わせると500種以上になります。これはハオルシアがごく最近進化した非常に若い一群であるためで、現在も多くの種が分化・放散中と考えられます。

 ハオルシアがこのように放散したのは、陰性の多肉植物と言う、極めて特異な形質を獲得したためと考えられます。大部分の多肉植物は陽性植物で、強光下でよく生育します。しかしハオルシアはもっぱら灌木の下や岩の隙間などの日陰でよく生育します。このような条件の場所は乾燥地域では競争相手が少なく、いわば空きニッチとなっています。このためこの空きニッチを利用するようになったハオルシアが爆発的な放散を起こしたと考えられます。なおハオルシアが好んで生育する傾斜地の岩場は耕作不適地であるため、多くの生育地は今でもよく保存されています。
Haworthia paradoxa in Vermaaklikheid
 ハオルシアの分類が困難なのは群落内の変異が大きなためです。一方、群落間の差異は比較的明瞭な場合が多く、ラベルなしでも産地の特定できる群落が多数あります。ただし近縁種では群落間の差異は一般にかなり細かく、これを見分けるのは相当の観察力が必要です。また群落内の変異が大きいので分散分析等の統計的な推定も不可欠です。つまりイネ科草本やショウジョウバエ類などと同じく、専門家でないと同定が難しいグループです。

 ハオルシアの群落は一般に非常に小さく、多くは数uから数十u程度の大きさで、そこに数十〜数百個体が集中的に生育します。群落間の距離は多くの場合、数km以上あり、その間に孤立個体はほとんど見られません。また群落内の各個体は原則年1回、2〜3週間程度の短期間に一斉開花します。外見的にはよく似ていても開花期が違うことで識別できる種も多数あります。花粉媒介者はハチなどの小型昆虫で、花粉交換の範囲や種子散布力も考えると、各群落は遺伝的に良く隔離されていると見られます。ただし種間の交配障壁はなく、亜属間でも交配可能です。(なおハオルシアは自家不和合性です。)

 灌木や岩の隙間に生えること、群落が小さいこと、群落間の距離が大きい=群落の数が少ないこと、孤立個体が極めて少ないこと、などからハオルシアは産地でもっとも見つけにくい多肉植物です。一般的な多肉植物のツアーなどで見れるのはせいぜいH. viscosaH. cymbiformisくらいで、運が良ければH. setataを見るのがやっとでしょう。ごく一般的な種であるH. retusaはもちろん、駄物扱いのH. turgidaでさえ産地ではまずお目にかかれません。クラッスラや球形メセン類など、他の希少小型多肉植物と比べても格段に発見しにくい植物と言えます。また群落が小さい上に藪陰や岩陰に生育するために、群落直近にまで足を踏み入れないとほとんど発見できません。これまで発見されているのは多くの場合、都市や道路の近傍だけですから、未発見の種がまだかなり多数あると推定されます。
玉扇『歌麿』 Haworthia truncata 'Utamaro'
万像『白妙』 Haworthia maughanii 'Shirotae'
銀河系ピクタ『白雪姫』
Haworthia 'Shirayukihime"  (Ginga Pikuta Gp)
 ハオルシアの育種は日本で近年始まったもので、玉扇、万像、ピクタなどで世界を驚嘆させるような超優良個体が作出されています。また世界中の収集家が日本のハオルシアの入手を競い、優良個体は慢性的に品不足という現状です。

 ところでこれらの人気植物では葉に白点や白線などの複雑な紋様が入り、それが個体ごとに大きく異なります。葉の紋様の個体変異を楽しむのは万年青などと共通する趣向です。さらに万年青などと同じく斑入りやその変化を楽しむのも江戸時代の園芸文化と同じです。この趣向はサボテンの兜やランポー玉の楽しみ方とも共通し、江戸時代の古典園芸が現代に花開いたものと見ることができます。つまり、朝顔や万年青、観音竹などの個体変異を楽しむ日本独特の古典園芸文化は江戸時代の終焉とともに絶滅したのではなく、現代においてはハオルシアや一部のサボテンで新しい展開を見せているのです。これはいわばCool Japanの園芸版と言えるものです。

 なお、優良個体を作出するためには交配や選抜の時に鋭い美的感性が必要ですが、日本がハオルシアやサボテンの育種に成功しているのは日本文化の中にそのような美的感性が深く根付いているためと考えられます。この美的感性は古典園芸や盆栽、日本庭園などの園芸分野に限らず、華道、茶道、あるいは浮世絵や和食などとも共通する日本独特の美意識であると考えられます。

 この美的感性は非常に洗練されたもので、これが今日のアニメやゲーム、コスプレなどのポップカルチャーを生み出し、世界的に高く評価されていることはご存じの通りです。そしてそのような美的感性が最も強く発揮される分野の一つが葉の文様の識別、選抜を必要とする園芸分野です。

 日本は昔からツバキや皐月、あるいは花ショウブなど、多くの分野で優れた品種群を生み出してきた伝統的園芸国です。しかし花の育種では日本の繊細な美的感性は必ずしも十分発揮できず、外国がそれらの園芸分野で育種を始めるとすぐに追いつかれてしまい、十分な競争力を維持できないと言うことが多々ありました。しかしハオルシアの様に葉の文様の変異を楽しむという分野ではこの美的感性は強く発揮され得るので、将来も十分国際競争力を維持できると見られます。すなわち日本で生まれ、世界をリードしてきたハオルシア園芸は日本文化の繊細な美的感性が強く発揮される分野であり、したがって今後もCool Japanの一翼として世界をリードし続けるものと期待されます。




 ハオルシアはアロエ科またはアスフォデラ科アロエ亜科の一属で、同じ科(亜科)の中にはアロエ属、ガステリア属、ポエルニッチア属があります。これらの属は花の特徴で分けられますが、花の特徴から見てアストロロバ属とコルトリリオン属はハオルシア属の一部と考えられ、ポエルニッチア属はガステリア属にもっとも近いと見られます。

 ベイヤー(Bayer 1976)はウイッテワール(Uitewaal 1947)の分類に基づき、ハオルシア属に3亜属を設けました。ただしこれは表面的な花の特徴に基づくもので、系統的な観点を欠き、多くの誤りがあります。以下は林の分類に基づいて解説するものです。

 ハオルシアの直接の祖先はコルトリリオンで、一属一種とする説が多いですが、少なくとも4種は識別できます。コルトリリオンは旧トランスバール州からオレンジ州にかけてイネ科草本などの草原に生育します。希少植物ではありませんが、イネ科草本に似た長い葉をしているので花でも咲かないと見つけるのは非常に困難です。コルトリリオンは陽性植物で葉に柵状組織があります。

 コルトリリオンの直接の子孫と考えられるのはH. blackburniaeの仲間で、H. wittebergensisもその一つです。長い葉が外見上の最大の特徴ですが、褐色で木質の茎と根は硬葉系と共通し、一方、花の断面は三角形で軟葉系(Haworthia亜属)と同じです。また花軸がやや硬く、最下の花までの節(sterile node)が少ない(節間が長い)など、さまざまな点で軟葉系と硬葉系の中間的性質を有し、両者の共通の祖先と考えられます。これらの特徴はコルトリリオンとも共通で、林はこの仲間とコルトリリオンを合わせてロンギフォリア(Longifolia)亜属としています。ハオルシア属全体の中で、葉に柵状組織があるのはコルトリリオンとこの仲間だけです。また染色体の形状も他の亜属と違っています。

 軟葉系(Haworthia亜属)の葉は軟質でより多肉質となり、太く短くなっています。葉の形態は非常に多様に分化し、多くの種が識別されています。花の断面が三角形なのが特徴で、他に花柱が短く(1~2mm)、上向きに曲がり、柱頭が大きい、などの特徴があります。これら花の特徴はロンギフォリア亜属と同じですが、花軸(花梗)は軟質で最下の花までの節が非常に多く、節間が狭いこと、また茎と根は柔らかで淡褐色ないし白色なのも大きな相違点です。系統的にはすべてH. (angustifolia v.) altissima の子孫で、その祖先はH. graminifolia と推定されます。

 硬葉系は葉が硬く、茎と根が褐色で木質、花は断面が六角形で花柱が長く(3~4mm)、まっすぐで曲がらず、柱頭が小さいなどの特徴があります。また花軸は硬く、最下の花か枝までの節(sterile node)が非常に少ない(枝がある場合は例外なく0)のも大きな特徴です。

 ただし系統的には単一ではなく、花が小さくて(短く)蝋色(黄色)色素を持つグループと、花が大きくて(長く)赤い色素を持つグループとに大別できます。前者にはH. scabraH. limifolia, H. nigra, H. viscose, H. maxima, Astrolobaなどが入ります。いずれも葉はやや革質幅広で展開性(横に広がる)で、ねじれて旋回する性質があります。後者にはH. venosa, H. attenuate, H. coarctataなどがあり、いずれも葉は細くて数多く、直立性でねじれたり旋回したりしません。H. venosaグループとH. attenuata, H. radulaを除くと葉はいずれも繊維質です。

 これらの内、葉がやや革質でねじれて展開性である特徴はH. blackburniaeに由来すると推定されます。H. blackburniaeには小さな花と枝分かれする硬い花軸を持ち、一見H. scabraのような花を咲かせる個体もあります。一方、葉が細く、直立性で多数ある性質はH. wittebergensisに由来すると考えられ、H. venosaH. radulaの葉裏の粉状結節はH. wittebergensisの葉裏の繊細な微小突起に由来すると推定されます。

 このように異なった祖先を持つと推定されるので、前者をParviflora亜属(基準種H. scabra)としてOligonodes亜属(基準種H. attenuate)から分離しました。

 したがってHaworthia属にはLongifoliaHaworthiaParvifloraOligonodesの4亜属があることになります。

 なおAstrolobaH. maximaグループの有茎型でその直接の子孫です。H. attenuateH. coarctataとの関係と同じです。花の基部が平らで膨らむ点や、短かい花弁 (lobe)、太い茎と花軸などが共通です。花弁が二唇形であることを主要な違いとしてDuvalはHaworthia属をアロエから分離したわけですが、そこでUitewaalは花弁が放射形のAstrolobaHaworthiaから別属として分離した次第です。ただしこれは花弁が短いために二次的に放射形に戻っただけの話で、全く系統関係を無視しています。たとえどんなに形質が変化していても系統樹の末端の枝のみを他から分離することはあり得ません。Uitewaalの分類に基づくBayerの分類体系もまた系統関係をまったく無視したものです。

 亜属の下は節(section)ですが、ハオルシアの中心群であるHaworthia亜属では非常に多くの節があるため、林はこれを整理するために波(Wave=上節、supersection) を設定しています。すなわち従来のLoratae節であるAsperdermis波(表皮が粗く、ざらざらしている。玉扇類を含む)、表皮が薄く、光沢のあるLeptodermis波、厚い表皮のHaworthia波(Retusaグループ)です。

 AsperdermisHaworthia波にはそれぞれ3節がありますが、Leptodermis波には6節もあり、H. setataなどのレース系、H. cymbiformisなどのレンゲ系、H. cooperiなどのジェム系がここに含まれます。これらのグループの詳細はハオルシア研究19号を参照してください。


 ところでハオルシア研究19号の表(p.11)の右端に示しましたように、林はハオルシア属には未記載も含めて現在約500種以上があり、それと同数程度の種が未発見であろうと推定しています。しかしBayerはハオルシア属にはわずか80~100程度しか種が存在しないと考えています。これは「種」についての考え方が違うからで、多くの場合、Bayerの種は林の系(series)に相当します。すなわちBayerは林よりずっと大きな集合を種と考えています。

 Bayerが種をどのような基準で分けて(統合して)いるかは明らかではありません。彼のHaworthia RivisitedなどではThe Genus and Species Conceptと題した一節がありますが、そこには抽象的なスローガンが並んでいるばかりで、何ら具体的な基準は示されていません。その後の彼の混乱(新しい著作ごとに種と変種の組み合わせがころころ変わる)も彼が具体的な種の基準を持っていないことに原因すると思われます。

 林が種を分ける基準はハオルシア研究17号(p.12-14)に発表されていますが(より詳細にはAlsterworthia Int. Vol. 7, 2007)、結論的に言うと、2つの群落間で80%以上の個体が識別可能(それがどちらの群落に属するか判定可能)ならば両群落は別種と判断しようというものです。ハオルシアの場合は各群落が地理的、遺伝的に他群落からよく隔離されているので、この基準は大変有効です。

 ハオルシアの花粉は主にハチ類が運んでいると考えられますが、それらのうち最も飛翔力の高いミツバチは、巣から半径4kmが行動範囲とされています。アブやハエ類、あるいは小型のチョウやガはそれよりずっと活動範囲が狭いですが、巣に戻らないので風に流されると10kmくらいは移動すると見られます。

 ハオルシアの種子は長さ1~2mm程度の角ばった粒子状で基本的に重力散布ですからほとんどが親株の周囲に散布されます。しかし軽いので強風に乗ると10km以上、時には100km以上移動する種子もあると見られます。もっともそのような遠距離種子散布はまれな事象なので、種の範囲を考えるうえでは無視できます(新種の形成上は無視できない重要な要因)。

 したがってHaworthiaの一つの種が花粉や種子散布によって頻繁に遺伝子を交換できる範囲はおおむね直径10km程度、最大径30km程度の範囲と推定され、これが種の地理的範囲となります。(もしアリが主要な花粉媒介昆虫なら種の地理的範囲ははるかに小さい可能性があります。)

 種は相互交配する集団だと言うのは生物学的種概念に限らず、今日では常識的な概念ですが、Bayerのように100km以上も離れた集団を一つの種としてまとめた場合、それらの間にどのような遺伝子交換があるのかはなはだ疑問です。形態的類似性や系統的近縁関係は系統学的分析の指標にはなっても種としてまとめる基準とはなりません。